恐怖のPhone ring  May 20, 2006

 シカゴでの内弟子時代には道場の電話が鳴る度に『びくっ!』としていました。その訳は英語がほぼ理解できない僕との会話が成り立たずガッチャと切られる度に馬鹿にされたような気持ちになり憂鬱でした。 時たまブロークンイングリッシュにも付き合ってくれる暇なのか親切な輩もいましたが・・・。 受話器から聞こえてくる音を頼りに理解しなければならない電話は僕にとってとても厄介物で、いくら耳を澄ませて聞き取ろうと一生懸命になっても、さっぱり埒が上がらず、そんな中で起こったエピソードをひとつ披露したいと思います。

  滞在1年が過ぎ不法滞在状態になったある日、ランチを済ませ師範と道場でくつろいでいると電話が鳴り始めました。もちろん、英語が喋れなくてもまず受話器を取るのは私です。相手は得意の英語でべらべらしゃべり続けますが、何を言っているのかさっぱり理解できませんでした。ただ、幸か不幸か『VISA?』という単語だけが耳に入ってきました。その時は僕のstatusが後ろめたかっただけにどんどんと妄想が広がり、その単語だけで僕はてっきり移民局からの強制送還についての電話に違いないと勝手に思い込んでしまいました。そう思い始めるとただでさえ緊張状態の上により身体に力が入って声もうわずってしまい、電話口に相手の失笑が聞こえてきます。僕もそれに合わせて照れ笑いを返しますが、もちろん神経はピリピリ状態です。30秒ほど経ったでしょうか?(僕には1時間にも2時間にも感じましたが・・・)とうとう師範からの助け舟が出ました。ただ代わる前に「誰からだ?」と聞かれ「多分Immigration office からだと思います。」と覚えたての英単語を駆使して返答すると師範の顔にも緊張が走りました。しかし、不思議と和やかな感じで話しが終わり15秒ほどで切ってしまいました。あっけにとられていると師範が「バカ!ただの間違い電話だよ!ピザ屋と間違って『Pizza』を注文しようとしてたんだよ!」と。これにはただただ笑うしかありませんでした。実は『Visa(ビザ)』と『Pizza(ピッツア)』を聞き間違えて私1人があたふたしていただけでした。

  あと、よくかかってきたのが「先生と勝負がしたい」「今からそちらにFightに行く」といった道場破りの忠告電話です。この類いは2週間に1回のペースであったように思います。僕も英語が段々聞き取れるようになってくると、このような電話の度に動揺していました。何せまず戦うのは僕で「師範、お願いします」なんて事はありえません。ただ、師範曰く「まぁ〜!いたずら電話だから、本当に来る奴はほとんどいないよ!」「本当に道場破りをしたいと思う奴は、普通に入門して12週間静かにクラスを受けてからある日突然『先生と勝負がしたい!』と言ってくるよ!」「そういう輩は注意しないといけないけど迷惑だよな!」と。と言うのも来る以上、骨に沁みるくらい痛い思いをさせないと、あちらこちらで『あそこの先生はたいした事ない!』とふれ回り、かといって痛い思いをさせ過ぎると逆恨みを買いgunを持ち出してくるとんでもない奴等もいるそうです。また、他の道場の先生が実力のない自分の生徒を洗脳して道場破りをさせ、怪我をしたりすると訴訟に持ち込み賠償金をがっぷり請求して、その道場を潰したりするそうです。何か武道の世界らしからぬ『うじうじ』としたものですが、異国で道場を維持していくのは大変だなぁ〜と感じると同時にそれを成し遂げている師範にそれまで以上に尊敬の念を持ちました。 私は師範から色々とアドバイスを受けれますが、何十年か前にシカゴに降り立った三浦師範は自身の体験を基に一人で打開していくしかなかった事を思い、師範の偉大さを一段と感じました。
  余談になりますが、僕が師範の内弟子をしていた3年間で確か4人ほど道場破りではないけど、僕と組手をしたいと言ってきたのがいました。こういうのに限って最後のクラスが終わり、一日で一番疲れを感じる時でしたが、やるしかありません。「今日は疲れているから明日にしようよ!」と言えたらと何度思ったことか・・・。こんな時は『楽しみのビール飲んで夕食を食べ、シャワーを浴びたら寝るだけだったのに〜。こやつのせいで・・・くっそ〜!』という気持ちを闘争心にするのみです。師範からは「顔は狙うなよ!大怪我をさせて病院に運ばなきゃいけなくなったら困るからな!その代わり、腹と脚はガンガンやっていいから、しばらくまともに歩けないくらいやっとけ!」と条件を出されます。ただ、僕は心にそんな余裕をもっては戦えませんでした。いつもやるかやられるか必死だったような? オス!

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