シカゴ道場のつわもの達 その2     August 14, 2006

ある日、午前中のクラスが終わり更衣室に入ると、そこには実弾の込められた拳銃がフロアーに...? それを忘れた人物が今回の主役です。名はJohn Maqueze といい50歳ぐらいのメキシコ系アメリカ人でシカゴ市警の警察官です。彼は、僕がシカゴ道場にやって来た時には茶帯(2級)をすでに持っており、師範曰く「もう10年近く茶帯を締めてる」とのことでした。仕事が忙しくて稽古になかなか来れないからかと思っていたら、そうでもなく休日には駐車場管理のアルバイトをしていると言っていました。(アメリカではDuty時間外に、こずかい稼ぎでバーの用心棒やボディガードといったアルバイトをしている警官が多く、またそれが許されています) その理由はどうも稽古の出席率が悪く、気が向けば1ヶ月ほど続けて来て、半年〜1,2年休むといった繰り返しだったようで辞めたのかなぁと思っているとひょっこり現れるそうです。日本人だとバツ悪そうに現れるところですが、彼はそんなことお構いなしに堂々とやって来ます。僕は、月謝を納めて通う以上、問題ないと思います。日本の道場でよくあるようなお金を払いながら必要以上に気を使ってまで通うことはないと考えています。 例えば、アメリカの大学では生徒が教授を評価し、評価の悪い先生はくびになりますが、日本で下の者が上の者を評価するシステムを取り入れている学校、会社等は少ないように思いますが? 僕の道場は、教える側が緊張感を持って指導する為に習う側の生徒たちが分からない事、納得のいかない事を遠慮なく質問できる雰囲気を保ちたいと思っています。

 さて、Johnはビジネスを考えた場合、道場主にとってとても良いお客さんでした。 というのもシカゴ道場は何ヶ月かまとめて月謝を納めると割引される設定でしたが、彼は来るたびに3ヶ月分をCashで前払いし、稽古に顔を出すのは長くて1ヶ月、短いと12回といった調子です。(アメリカで高額な金額をCashで支払うのは珍しいです。僕が日本に帰ってきて困ったことの一つは、ある程度の現金を持ち歩いてなければ不都合に出くわすと云う事です。アメリカにいた時、現金はせいぜい10ドル程(1200円ぐらい)あとはすべてカードと個人用小切手で事が済んでいましたが、日本では千円札1,2枚だけで、どこかへ出掛けると不安が常につきまといます。慣れればそうでないかもしれませんが? あまりにもカード精算できる店がアメリカに比べて少なく不便に感じます。

  彼は、来るたびに何かしら忘れ物をして帰り、シカゴの警察官である以上、一番大事な拳銃さえも忘れて行くぐらいですから...。 また、いつも(暑い夏でも)蛇皮模様のブーツを履いてやってきますが、帰りには裸足で帰って行くといった具合です。 しかも、直ぐには気付かないのかしばらく経ってから戻ってくるので、ただただ笑うしかありません。こんな彼も律儀なところがあり、僕が道場を離れた後もシカゴで僕の試合がある時や演武をするときは必ずと云っていいぐらい観に来てくれていました。 なかなか憎めない人です。

 もう一人、朝のクラスに来ていた人で思い出すのは、78歳で青帯(8級)を持ってがんばっていたおじいさんでした。 その人が来ると師範がこっそり「あまりハードな事はするなよ! ここで心臓麻痺でも起こされたら大変だからなぁ!うっすらと汗を掻くぐらいでいいぞ!」と言ってきます。 でも本人は、そんな内容では満足せず、いつも「More! More!」と訴えていました。しかもこの方、2時間程ドライブして来るとの事。『そっれって往復4時間?帰りだいじょうぶかなぁ?』といつも思っていました。日本と違って高速道路を2時間ほどぶっ飛ばして来るので距離にしたら100マイル(160km)は離れているところに住んでいたんでは? いや〜!僕には真似できないなぁ〜! あっぱれ!です。

 他にも朝のクラスには、変わった人が何人か通っていました。 本来、午前中のクラスに出席できる人たちは時間を自分自身でマネージできる弁護士、医者、ドラッグディーラー?(麻薬の売人)じゃないかと思うような人たちですが、彼等と接する中でいろんな人生観を知り得たことは僕の宝です。 今、改めて感じますがアメリカは僕にとって住みやすいところ、しかし、自分の意思をしっかり持った行動をせず、自由だけを求めていくと、とてつもなく厳しい現実にぶち当たります。  押忍

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