正拳〜The fist 〜 January 21, 2007
大山倍達総裁が『君〜ぃ!私はね!この歳(60歳頃)になっても未だ拳の握り方に疑問を持つよ!』と云われていたのを思い出し、我が拳を見つめ、ふと頭に浮かんできたことを書きます。 この冬、僕の手は久々にアカギレになり辛い思いをしていますが、シカゴでも冬になると『あかぎれ』が酷く、日々のサンドバック稽古ではあちらこちらが血染めになりました。
僕が正拳について強く影響を受けたのは、やはり米国に渡って大山茂最高師範の指導を受けてからです。 内弟子1日目の早朝稽古では、正拳をしっかり固められるように拳立ての仕方、拳の握り方、サンドバックの叩き方等々きめ細かく教わりましたが、僕の拳は初日の拳立てでナックル部分の皮が剥け悲鳴をあげました。極真会館総本部の内弟子時代、早朝稽古で会館隣にあった公園で毎日のように拳立てをしており自信はあったのですが・・・ショックでした。 それまでどこで拳立てをしても皮が剥けた経験は無く、ニューヨーク道場での最初のセットでぺろっと皮が剥がれてしまった事実に大きなショックを受けました。 新しい皮になるまで稽古休みという訳にはいかず、その部分が腐ったようになって膿が出ても日々サンドバックを叩き続けました。 もう、そこが何かに触れただけで全身に強烈な痛みが走り、シャツの袖を通すのも慎重に慎重を期す状態でした。 特に、サンドバックを叩く時、気合はいつもの数倍大きな声で『いかにも力一杯叩いています』といったアピールを醸し出しますが、拳はバックに微妙に触れる程度にしていました。 しかし、最高師範の目は誤魔化せず、僕の腕を持ってサボれないよう常に力一杯の突きを出さされ、最後には竹刀を持ってすぐ後ろで監督をしていただきました。 最高師範の手は大きかったし、正拳を作るとより威圧感があったのを思い出します。 余談ですが、自分でクラスを指導するようになってからは最後の黙想後、参加した道場生一人一人と握手をしますが、これは最高師範たちから学んだもので『相手の拳に触れ何かを感じ取れる』と僕は勝手に思っています。
さて次はシカゴでの拳の思い出。古い皮が剥がれ新しい皮になるサイクルを繰り返していると皮が強くなるのか? 硬いものを叩いても痛みを感じなくなり、自分の拳に自信を持っていたある日の稽古で、三浦師範から道場にあった木の板(何の木だったかは覚えていません)に帯を巻いた自家製の巻き藁を叩いてみるよう言われ、渾身の力で叩き、その痛さに耐えられず目からは涙が溢れ出て止まらなくなり、師範の前で号泣してしまいました。(20歳を過ぎて痛さで泣いた記憶はこれぐらいです)ホントに痛かった! と同時に自信を見事に挫かれた悔しさも混じってしばらく落ち込んでしまいました。 また当時の道場では電話帳を duct tape(ガムテープ)でグルグル巻きにほどよく固めたものをステップワークを使いながら様々な角度から叩く稽古を相当しました。 そのおかげで僕は左の下突きが得意技になり、ある試合ではその一撃で相手のアバラ骨を折り一本勝ちした経験があります。このKO劇は、それまでにない快感であり、やはり空手の醍醐味である一撃必殺体感しました。放った技で相手がマットに崩れ落ちると自分に酔いしれ、倒したその技に一段と自信が湧いてきました。
そんな頃の思い出話を一つ。 内弟子時代の移動手段はいつも電車で時刻表が一応はあるのですが、日本のように数分の狂いもなくオペレートされることはありません。 これに慣れてしまうと『日本の時間通りの正確さ』は芸術でありマジックに思えてなりませんでした。 素晴らしい事だけど多くの人たちの計り知れないプレッシャーという犠牲の上に成り立っているように思えるのは僕だけでしょうか? さてさて話が横道に逸れそうになりましたが、ホームで電車を待つ間、そこにある鉄柱を叩く癖が付きハッと我に返り、僕を珍しそうに眺めている人、気にはなっているが僕と目が合わないように様子を伺っている人(薬か何かでラリッている危ない人物を見るしぐさ)に囲まれていた事がありました。 時々「Are you Bluce Lee?(お前はブルース リーか?」と尋ねてくる輩もいて、そんな時は「He's my elder brother. (俺の兄貴だ!)」と冗談をとばしていました。 稀に本気にする人もいて厄介でしたが・・・(笑) アメリカでよく経験した「Are you Chinese?(中国人?)」とか「Where were you from?(どこから来たの?)」といった質問には「I'm French!(俺はフランス人だ!)」とか「I was from the moon. (あの月から来たよ!)と適当にふざけて返答していました。 もちろん、その場の雰囲気を感じ取ってですが...。
あえて言うと、日本に住む人たちみんなもっとリラックスが必要では...? 最後は、このタイトルと関係ない締めくくりになりましたが、怒らずに relax !! 押忍