出逢い        February 14, 2007

 この世に生を受け40年余り経った今、ふと『これまで何人の人たちと出逢っただろうか?』との思いが頭をよぎり、その一つ一つの出会いから何かを感じ取って今日の自分があると実感させられました。これから先もこの世を去るまで幾度となく新しい出会いが待っていると思えばワクワクしてきます。 昨今は、ニートという名の下に人と係わる事を拒否する者がたくさん存在するようですが、何とももったいない話です。この世に存在できる時間は限られており、その間に色々な体験をし、生きがいを感じるのだと私は信じるから・・・。随分と前置きが長くなりましたが、今回は僕のturning pointになったと思える家人との出会いについて書きたいと思います。

  僕がシカゴ・オヘア空港で勤務していたある日の到着便から『ゲートに救急車を待機させておいて欲しい』とのrequestが飛び込んできました。 コックピット(操縦室)とはテレックスでの交信の為、詳細はハッキリしませんでしたが重病人が出た様子ではありませんでした。 この機がゲートにブロックインしてドアが開けられ先任(チーフパーサー)からの報告では、乗客一人が到着前に何らかの発作をおこし機内で少々暴れたようです。本人は落ち着きを取り戻してからテンカンの症状があることを話したそうですが、飛行中も乗務員に「シカゴでは、どこに行けば拳銃が買えるのか?」とか「シカゴには自殺をするために向かう!」と口走っていたそうです。     

さて、空港近くの病院に運び込まれましたが1人旅であったため、僕と当時の空港所長が病院まで付き添って世話をする羽目になりました。 通訳のため医者とのやり取りを聞いていると「死ね!死ね!」と言う声がどこからか聞こえ始め、その声が追いかけてきたので福岡から成田まで逃げ、そのまま目的もなくTicketが買えた便に搭乗したとの話。50代の男性が真顔でこの話しているのを横で聞きながら背筋に寒気が走ったのは言うまでもありません。因みに、この方は九州で数学を教えていた元高校教師だということが分かりました。 その日、精神科のドクターは迷うことなくイリノイ州営の精神病治療施設に搬送する指示を出しましたが、運が良いのか悪いのかThanksgiving'sday感謝祭『キリスト教ではクリスマス前の大切な祝日』)の真っ只中で連絡が取れず、とりあえずはそこのIntensive Care Unit(集中治療室)に入院することになりました。

日本にいる親族に連絡しても『縁を切った』という理由で誰も迎えには来ません。最終的にはシカゴ領事館-外務省を通して兄弟に成田まででも迎えに来るよう説得し、そこまでは僕が同伴する事になりました。 通常、こんな事情だとキャプテンが搭乗拒否をして色々ややこしいのですが、たまたま搭乗予定機の客室担当は良く知ったチーフパーサーで僕が空手をやっていて何かの時には、その乗客を押さえ込むから大丈夫だとキャプテンに伝えてくれたようで事はなんなくクリアされました。さて、13日のこの旅、成田に到着後は空港近くのホテルで夕食を取り、翌日の正午にはシカゴへとんぼ返りで、シカゴに着けば即仕事だったように思います。唯一、往復共にビジネスクラスに乗れたのが救いかな?
 後日、このチーフが乗務でシカゴに来た際、彼女の
manegerへの昇格祝賀会が催され、それに僕も誘っていただき、隣の席にいた乗務員と今は夫婦となり、一つ屋根の下で一緒に暮らしています。出逢いってそんなもんですよね?

 色々考え始めると限がありませんが、縁って不思議ですよね? 何だか分からないけど思いがけない出逢いがあり、思いがけない別れもあり、なかなか自分の思い通りの人生は歩めないものです。 あまり考え過ぎると精神的に参ってしまうので何事も気楽に!!

 ここでコラムを書いていて思い出した話を一つ。 以前、ニューヨーク市で路頭に迷っていた老人が保護され、本人確認ができるパスポートなどは何一つ携帯していなかったようですがJapan Airlines のレシートか何かがポケットに入っていて、それをきっかけに身元が判ったそうですが、この老人、来た際は誰かが付き添っていたようですが、その人物はとっとと日本に帰国していたそうです。どうも痴呆が出始めた自分の親をニューヨーク旅行に誘い、身元の判る物すべてを取り上げた上で、迷子にさせて見捨てたという話です。 まるで随分前に話題になった映画『楢山節考』の姥捨て山の世界です。自分を育て上げてくれた親を・・・絶句してしまいました。

 今日は我が娘が2歳の誕生日を迎え、ささやかなパーティーを催し、ケーキを食べながら『いずれ僕が認知症になってもけっして見捨てないでね!』と娘の耳元で念を押しておきましたが・・・無視されてしまいました。   押忍

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