シカゴのなが〜い夜 Part 2

先輩は連行された警察署内の地下留置所に入れられ、僕は1階ロビーで長く待機させられたあげく「おまえは帰れ!」との指示。(どうも先輩が『彼は関係ないから早く帰らせてやってくれ!』と交渉してくれたようで、あとからそれを知り先輩の男気を感じました) ただ「帰っていい!」と言われても真夜中だし、自分がいる場所や帰るべき道場の住所さえ分かりません状態。これはもう三浦師範に連絡するしかないと思いましたが、その電話番号さえも知りません。こうなると、もう必死です。どんな英単語を並べたかまったく記憶にありませんがofficer に先輩と話させてもらえるよう決死の訴えをしました。(血相が変わっていたと思いますが思い出す度に微笑です)僕らが凶悪犯でなく反抗的な態度もとらなかったことが功を奏したのか電話越しに先輩と話しをさせてくれましたが、彼らが理解しない日本語のため、ほんの僅かな時間での許可でした。とり合えず道場の住所を尋ねますが、先輩も酔いが手伝ってか?曖昧で結局分からずじまい。絶望のなか、近くにあった公衆電話を何気なく見て思いついたのが『yellow pages(電話帳)これに道場の広告が載っていたことを思い出し、そこに住所も書かれていたはず!しかし電話帳そのものが見当たりません。また、英語で彼らに尋ねなければいけませんが、頭に適当な単語が浮かんできません。やっと思い浮かんだのが『phone book!』この表現で間違ってはいませんが発音が悪いため通じません。 相手も僕が訳の分からない言葉をわめき始めたとでも思ったのか完全に無視状態に入りました。『こんな時は攻めるのみです』 そう思ったかは覚えていませんがゼスチャーを取り入れての訴えを始めました。記憶にあまり残っていませんが、公衆電話を使って必死のパフォーマンスだったのでしょう。彼らが大笑いを始めたのだけ覚えています。こっちは大真面目で必死だったのに...。 とり合えず、その甲斐もあってか?住所が分かり、てっきりパトカーで送ってくれるものと思いましたが、そう甘くはありませんでした。うがった見方をすれば、まず道場まで遠いし変わった東洋人だし『適当に対応しとけばいいだろう』ぐらいに思われたのかな? 一応、タクシーは呼んでくれたようで、しばらくするとタクシーが来て運転手とofficerが何やら話したのち、運転手が僕に向かって「Money Money!」と叫び始めました。僕が道場までの運賃を持っているかどうかを確かめたかったのでしょう。たまたまポケットに20ドル札が入っていたのが幸いして乗ることが出来ました。ただ、車中では相当疲れていたにも関わらず『お金だけ巻き上げられてどこか危ないところに連れて行かれはしないか?』と神経はピリピリ状態が続き、ようやく見覚えのある道場近くの風景を目にしたのは夜が明け始めた頃でした。 タクシーの運ちゃんには「thank you thank you!」の連発でチップも今思えば『渡し過ぎた』と思うくらい気前よくあげましたが、けっして損をしたような気分にはなりません。彼も相当喜んでいたのを覚えています。初めは、彼を疑っていたにも拘わらず、最後には感謝の気持ちでお金が使え、とってもいい気分でした。こんなお金の使い方がいつもできたら幸せだろうなぁ〜と常々思います。
  さて、道場に入ればひとときの安らいだ気分から現実に戻り、師範と顔を会わせるまでの数時間は、どう説明しようかと悩みが尽きませんでした。朝日が洸々と昇り始めた頃、師範から電話が入ります。「xx先輩は居るか?」「押忍、今買い物に行かれております」「そうか、じゃ〜また後で電話する」 ガッチャ。 しばらくして「xx先輩は帰ってきたか?」「オ〜ス! まだであります」「朝早くから随分遠くへ行ってるんだな?何を買いに行ってんだ!」「ウォ〜ス?」言葉が続きません。さすがに師範はすぐに気を読み「おまえ、俺に嘘ついてるだろう?正直に言え!」「おっ〜おっ〜お〜す!」一段と口ごもりました。  押忍    つづく...

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